…正直








「お、ココボールあるぜ。キャッチボールすようぜお前ら、なぁ!」

ホテルの娯楽施設に置いてあった、グローブとボールを取り出して、ポルナレフが振り向けば、後ろで物珍しげに部屋を見回していた二人に持ちかける。

「いいよ。僕、和也するから、ポルナレフは達也ね。」
「いいねぇ。じゃあ承太郎、お前新田な。」
「…………誰だ、そいつら。」

突然振られた配役に、承太郎が片眉を挙げることで返せば、既にグローブを手にしていた花京院とポルナレフは、振り向きざまに『えぇ』と大声でブーイングする。

「誰って、タッチだよ。タッチの双子と、そのライバルの新田。…当然だろ?」
「お前、南ちゃんにでもなるつもりだったのかよ。」
「………。」

肩に担いだバッドをポン、ポンと振りながら、心底呆れたようにポルナレフが返すのも、知っていて当然と呆れる花京院にも、正直苛立たしいが、承太郎は無言でポルナレフからバッドをひっつかむと、『いいから投げろ』と花京院を連れて距離を取った。


* * * * *


「サッカーやろうよ。ボールあったからさ。」
「いいねぇ。じゃあ俺翼やるわ。お前岬な。」
「えぇ。僕、三杉くんがいいな。」
「じゃ、それで。あ、承太郎、お前は日向な。」
「…………。」

サッカーボールをクルクルと指で廻して盛り上がる花京院とポルナレフに、承太郎はただ見守るだけで、彼らの『協議』が終わるのをぼんやりと、ポケットに手を突っ込んだまままっている。
やがて配役にそれぞれ納得行ったのだろう、花京院が地面に置いたボールを蹴れば、転がったそれは承太郎の元へきて、『はやく蹴ってッ!』と遠くで手を振って促してくる。

爪先で蹴り上げたボールを、一度膝の上でリフティングさせて、承太郎が蹴り返そうと、ポケットに手をつっこんだまま片足を後ろに構えたところで、花京院と反対に距離を取っているポルナレフから、物言いがはいった。

「だめだって承太郎、蹴る前にあの掛け声言わねぇとッ!」
「あぁ?」
「承太郎、早くッ!声かけてッ。」
「………。」

何の意味か分からず、ぽかんと口をあけて二人を交互に見比べれば、宙に浮いたボールは地面に着いて、てん、てんと転がった。

「…………何を、言えって?」
「あれだよ、日向小次郎の決まり文句。『喰らえ南葛!これが俺の、タイガー・ショットだッ!』って言わねぇと!」
「承太郎、僕『行っけぇ!キャプテンッ!』ってその時だけ若島津になるから。」
「お、じゃあ俺は若林だなッ。」
「………………。」

一端承太郎の元に集まってきた二人は、一斉に捲くし立てると、ポルナレフは『わかったな』と念を押して距離をとり、花京院はにこにこと上機嫌に承太郎を見上げてくる。
『そんな台詞など言えるか』と反論しようとしたが、開きかけた口が声をかける相手のポルナレフは快活に手を振って促すし、傍らの花京院も頬を昂揚させる勢いで承太郎の掛け声を待っている。

きらきらと眼を輝かせて、今か今かと承太郎ふんする『日向』何某が、その屈強な脚から繰り広げるシュートを繰り出すのを待っている。花京院は『若島津』に成りきって応援するのを待っているのだろう、承太郎は引き攣った顔で花京院にちらちらと眼を向けるが、普段ならすぐに人の仕草や動作の機微に鋭い彼は小さく首を傾げただけで、承太郎の一言がないのをいぶかしむどころか、一層に期待をかけてくる。

「承太郎、早く蹴れって!」
「…あー……。『くらえ、南葛…?これがタイガー・バーム―――』」
「違うって、バームじゃなくて、ショットだって!」
「承太郎、タイガー・バームは軟膏だよ。」

棒読みでいかにもぶっきら棒に言葉をなぞった承太郎に、容赦ない合いの手を返してくる二人は、遠慮ない笑いを振りまきながら、承太郎をからかった。
不機嫌に顔を顰める承太郎の、舌打ちにすら気付かない。



* * * * *


「バスケやろうぜバスケ。三人で交互に1on1な。」
「なに、バスケットあんの?」
「籠はねぇけど、ボールはある。壁のレンガにゴールの場所決めてやろうぜ。」
「おぅ。」

脱ぎ捨てた制服を壁に放り投げれば、畳み直して隅に置いた花京院を連れて、承太郎はポルナレフの元へ歩み寄る。

「そうだな、あれ。あの少しだけ色の濃いやつ。あのレンガをゴールにしようぜ。」
「少し、高くねぇか?」
「いいよ。スタンド使うのなしだよ。」
「お。じゃあスタンド使って2対2ってのいいかもな。」
「面白そうだな。」

腕を廻しながらルールを決めるポルナレフに、承太郎も上機嫌に首を廻して答えれば、花京院は『じゃあ』と顔を挙げる。

「スタンドと本体の組と、残り二人組だったら、いいんじゃないかな。」
「お、いいねぇ。承太郎、手加減しろよ?」
「テメェらがヘタクソだったらな。」
「じゃあ最初はポルナレフとチャリオッツ対、僕と承太郎な。」
「あ、おれ仙道やる。」
「じゃあ僕は流川で、承太郎は、桜木花道だね。」
「…………桜、」
「お、凌南VS湘北。因縁の対決だねぇ。」
「―――凌?」
「じゃあ、チャリオッツは福ちゃん?」
「ま、そんなもんだ。」
「…………。」

またもや承太郎を残して盛り上がる二人に、承太郎は開きかけた言葉を最後まで紡げないまま、唖然と二人を見守る。ただただ、今の会話が終わりゲームが始まるのを待つのみだ。

そして彼は常に思うのだ。
何故、ゲームをやるときに彼らは

―――漫画のキャラクターになりきらないと、遊べないのか。

しかし上機嫌でポルナレフに顔を向けて笑う花京院の、キャラクターに成り切って快活にうごく姿や、はしゃぎながらキャラクターの名台詞らしい言葉を繰り返して盛り上がるさまは、微笑ましく、年相応にふざけて遊ぶ様を見るのも、承太郎としては悪い気もしないのだ。
渡されたバスケットボールを指で廻しながら彼はまた思うのだ。
『今度ジジィに漫画借りて読もう』と。

でもそれでも、正直、漫画に詳しくない承太郎は、二人のように、少年漫画に詳しく、キャラクターになりきって遊ぶほど柔軟でもないので、二人の一風変わったゲームの仕方に

―――ついて、いけねぇ。

ちょっぴり、蚊帳の外の気分を味わう承太郎だった。





2009/1/1 日記より転載



・・・ひどいなッ