先日の絵チャットで、ぱるさまとおきむくさまが素敵な絵を書いてくださいました。
むりを申し上げて頂いたので、ワタクシめのお話も添えさせていただきますれば。
お二人の絵はお話になるなぁと。
エロスに定評のあるぱるさまの、二人の匂い立つような色気と、しっとり切ない程に美しいおきむくさまの
静かなエロスに感動です。
お二方、ありがとうございましたッ!









口づけ



波のように体がゆり動く度にベッドが軋み、そのたびにシーツに広がる髪がパサパサと音を立てる。
短く紡がれる息に余裕はなく、窒息寸前で喘ぐように時折、悲鳴のようなうめき声が上がる。
二人の律動はまるで、海に揺らめくように、暗い部屋に灯された部屋の壁に映る影は揺れる。

今、シーツに頬を押しつけて強く目を瞑る花京院は、汗に濡れた首筋を曝したまま、唇を戦慄かせている。
ぴんとつっぱった首筋は、まるで『噛みついてくれ』と言わんばかりに張り詰めて、背を逸らした躰も、承太郎に差し出しているようだ。
普段からはちらりとも垣間見せもしないその痴態は、部屋に入るなり承太郎が抱きよせた瞬間に、背広の隙間から洩れでるように匂い立ち、はだけたシャツから見えた白い肌を認めたその時には、承太郎は早く全てを曝してしまおうと余裕なく服をはぎ取った。

二人で絡みあうよりも、子供のころのように押し倒して、驚き呆れながらも其れを許す花京院に、学生の頃さながらに、息だけを荒くして貪る。もう30も半ばになり、分別の何かも充分に分かっているつもりでありながら、こんな時だけは、性を知りたての子供のようにふるまうのも、一つは大人になったから出来る『遊び』なのかもしれないけれど、今はそんな感慨にふける暇などなく、ただただ、目の前の白い肌を堪能した。

長い律動の後で、胎内にとどまったまま吐き出した性に、承太郎の下で花京院が震える。生温かな濁流は、彼の胎内をめぐり、そして何も吸収しないまま、流れ出て行くだろう。
少しばかり其れを惜しみながら、ゆっくりと体を離すと、それまで切なく眉を顰め啼いていた男は、汗に濡れた頬をほころばせる。

「酷い男だ。」

久しぶりに逢ったのにその言葉はないと、苦笑しながら囁く花京院に、片眉を吊り上げて返せば、彼はちらりと下肢を見やって、また苦笑した。
そういえば、花京院に逢うのはこれで半年ぶりになる。お互い仕事が忙しく、また互いの都合が合わずに、電話くらいでしか逢うことができなかったのだ。メールのやりとりすらできず、その電話でさえ、オフィスからの事務的な連絡ばかりで互いの個人的な話など、『元気か』位しか話していなかったのだ。それを、久しぶりに会ったのに、部屋に着くなりろくに会話もなく抱き合って、精まで中に吐き出されては、承太郎に寛容な花京院でさえ、小言を言うのは当然だろう。

「…すまん。」

だから素直に謝れば、花京院は一瞬目を開いて、まじまじと承太郎を見上げる。ゆっくりと置き上がり、濡れた下肢を隠すよりも、漏れる精を気遣いながら脚を閉じると、彼はまた『酷い男だな』と呟いた。

「これじゃあ僕が、酷いことをされたみたいじゃないか。」

そう言って笑う花京院には、『酷い』と文句を言ったものの、責める気配は何処にもない。どころか承太郎をあやすようにゆるりと眉尻を下げて笑い、頬に貼り付いた髪を掻き上げる。
その寛容と、無邪気にやってのける艶然が、承太郎を何処までも付け入らせるのだと、彼は知らない。いや知っていてもなお、其れを承太郎に曝すのは、花京院自身、其れを望んでいる節があるのかもしれぬ。
けれど思わず手を伸ばして、自分を引き寄せようとする男に、花京院はくすりと笑って身を引くと、裸のままベッドから脚を落として、承太郎に背を向けたままバスルームに身を滑らせた。
唖然としたまま中途半端に伸ばした腕を下ろすと、ほどなくバスルームからシャワーの音が聞こえてくる。

素っ気なさも何も変わらない。そういえば旅の途中も、あれだけ必要に求め求められ、果てた後はぐったりとベッドに倒れ込む程に抱きあっても、次の瞬間には花京院は承太郎に背を向けて、さっさと身を清めに離れて行った。
初めは腹も立て、あるいは物足りないと思っていたけれど、今にして思えばそれは、花京院なりのてれ隠しであったし、また現実問題、負担のかかる躰を、少しでも早く解放する為のものであったとわかるけれど、それでも少しばかり味気ないと思ってしまうのは仕方ない。
だからせめて、自分から手をのばしたのだからと承太郎は置き上がると、湯気を洩らすバスルームへと花京院を追いかけた。

ノックもせずにドアを開ければ、雨に打たれた花京院は、ちらりと承太郎を認めながらも、其れを責めることはない。
バスタブの中に立ち、汗を流す花京院に、承太郎も歩み寄り、項にシャワーを垂らす彼を抱き締める。

「…流れてしまったね。」
「………。」

見下ろせば、彼の下肢から湯と共に、先ほど承太郎が注いだ精が流れ落ちる。

一度結婚し、子供を設けた承太郎に対して、花京院は一度として誰かを隣に置くことはなかった。
承太郎との交際が、彼が結婚していた間に途切れていた時、女性の影がなかったとは思えないが、それでも承太郎の耳には、花京院が誰か他の女性を愛したという話は聞いていない。
それを、自分への一途さと思うのは少しばかり傲慢なのだろう。

「自分には、子供は作れないから。」

と、友人に戻った時にぽつりとこぼしていた彼は、薬の所為で、子を作る能力は失われてしまった。
あるいは其れを苦にして、誰かを愛することを拒絶したのだとすれば、それは一端では承太郎の『所為』であるのかもしれぬ。
しかしそれでも、承太郎は其れが嬉しいと思ってしまう。花京院が自分以外の誰かを愛し、誰かと子をなし、育て、自分から離れてしまったらと思えば、自分はとてもではないが、彼に手放しで喜ぶということはできないだろう。

「…承太郎?」
「…ん?…あぁ。」

濡れた髪を掻きあげて、花京院が見上げる。
思えば花京院は、承太郎が自分以外の誰かと家庭を築いた事に、恨みごとの一つも言わぬどころか、まるで自分のことのように喜んでくれた。娘を愛しているのは、まさかに自分以上ではないかと思えるほどに、承太郎の子への愛情は、とても『親友の子供』に対する愛情でくくることは出来ない程だ。
それが、自分が我が子を抱くことができないことからくる愛情なのだとしたら、其れ以上に、承太郎の血が未来へ繋がっているからだとしたら。

「…子供を、作ろうか。」

と言いかけて、承太郎は口を噤む。
しょせん、同じ性で子を作ることなど出来ないと、そんな子供のような諦めではなく、贖罪のように呟く事に、憚られたからだ。
抱き締めれば、当然のように抱きしめ返してくれる躰は、今は湯と先ほど抱き合った名残の所為で温かい。
けれど普段の彼の体はひんやりと冷たく筋張って、夢にも子供をなすことが出来る躰だなどと、思いはしない。
背に回した手を首筋に擡げて、頬に口づければ、花京院の頬に当たる湯が、涙のように感じて、思わずそっと唇で吸い取った。

「…承太郎。」

耳に触れる湯と共に、花京院の囁きが静かに伝わる。

「…ごめんね。」

それが何に対しての謝罪なのか、承太郎は気付かないふりをして、洗い清めた花京院の下肢に、己が体を擦り寄せた。





2011.8.29 絵チャットより転載
承太郎(ホントに)酷い男。



自己設定沢山入れてホントすみませぇん。そして重い話にしてすみませぇん。
即興で書いたのでいろいろ承太郎のフォローがないですが、典明さんは太郎の子を産みたいわけではないけれど
血を残せない後ろめたさはあるってことで一つ。